投稿者「hosd」のアーカイブ
第9回市民講座を開催いたしました
Vol.4 背骨の代表的な病気
1)ヘルニア
図11. ヘルニア
椎間板の中の髄核(ずいかく)が、まわりを囲んでいる線維輪(せんいりん)を破って、脊柱管の中へ出てくる状態をヘルニアといいます。脊柱管の中には脊髄(せきずい)や神経根(しんけいこん)、馬尾(ばび)が入っていますので、これらの神経が傷められて、腕や足の痛み・しびれ・麻痺が出ます。髄核が線維輪を破る一番最初の時期には、頸椎椎間板ヘルニアでは首から肩甲骨(けんこうこつ)にかけての辺りが痛くなります。また、腰椎椎間板ヘルニアでは腰からおしりにかけて痛くなります。髄核が脊柱管の中へ出てしまうと、中にある神経根や脊髄、馬尾が刺激されて、手足のしびれ・痛み・麻痺が出てきます。
2)狭窄症(きょうさくしょう)
図12. 南京錠(a)とMRI(正常:b、狭窄症:c)
背骨に年齢的な変化が強くなってくる(変形性脊椎症:へんけいせいせきついしょう)と、脊柱管が、正常(図12b)よりも狭くなってきます(図12c)。脊柱管が狭くなると、その中にある神経が圧迫されるようになってきます。腰椎で脊柱管の中の馬尾(ばび)が圧迫されるようになると、立って歩くと足にしびれが出てつらくなり、坐ったり前かがみになって休憩すると楽になり、また、歩くことができるようになるといった症状が出てきます。これを間欠跛行(かんけつはこう)と呼びます。「跛行(はこう)」とは「歩きにくい状態」のことで、「間欠(かんけつ)」とは間欠温泉のように、「ときどき出てくる」ということですので、「いつもじゃないけど、歩いているとだんだんしびれて歩きにくくなり、休むと楽になってまた歩けるようになる」状態を意味しています。
「狭窄症」と言えば、普通には、腰椎(ようつい)におきる「腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)」のことを指します。しかし、狭窄症は脊椎の他の部位、とくに頸椎にも発生します。頸椎で発生する場合には、頸椎の脊柱管にある脊髄(せきずい)や神経根(しんけいこん)が圧迫されて症状が出ます。脊髄が圧迫されると手足に麻痺(まひ)が出て動かしにくくなります。神経根(しんけいこん)が圧迫されると、腕や手のしびれ、痛みが出ます。
図13. アルミ缶の凹みを手を開いて戻す(手術で症状を良くする)
このような状態は、アルミ缶などを手で握りつぶしているような状態に例えることができます(図13a)。手を脊柱管(せきちゅうかん)の壁、つぶされているアルミ缶を神経(脊髄、神経根、馬尾)と思って下さい。手術のときには、この握っている手(脊柱管)を開くことになります(図13b)。図13bのように、ある程度のアルミ缶の凹みなら手を離すことで元に戻りますが、それでも凹みの強かったところは残ってしまいます。手術をしても(手を離しても)症状は(凹みは)一部で残るということです(新品のアルミ缶に比べて凹みは一部で残っています)。図13cのように、アルミ缶がもっと強い力でグチャッとつぶされてしまいますと(神経が完全に傷んでしまって、症状がひどくなりすぎると)、いくら手を離しても(手術をしても)、アルミ缶は強く凹んだままで残ってしまいます(症状は大きく残ってしまいます)。このように「狭窄症」の症状に対して手術を考える場合には、手術で得になることと、残ってしまう症状のことについて理解しておく必要があります。どんなに最新の手術であっても、そしてどんな素晴らしい医者に手術をしてもらっても、新品の完璧なアルミ缶には戻りません。
Vol.3 背骨の役割②(神経保護)
支持性の他にもうひとつある背骨の役割は、脳から始まって手足に向かっている神経の通り道を確保して、これを守ることにあります(神経保護)。脊椎が縦に並んだ背骨(脊柱:せきちゅう)の中には、筒のようになった脊柱管という穴があります。この脊柱管の中には頭蓋骨の脳から続いている脊髄(せきずい)という神経の塊(かたまり)が通っています。この脊髄は脳と同じく手足の動きの細かい調整など複雑な働きをする神経の塊で、脳と同じく中枢神経(ちゅうすうしんけい)と呼ばれています。
脊髄は頭蓋骨を出て、頸椎(けいつい)やその下の胸椎(きょうつい)の脊柱管の中を通り、腰椎(ようつい)との境界の辺りまで延びています。そして、その先の腰椎になると、神経の塊である脊髄はばらけて、たくさんの神経の筋(すじ)(神経線維:しんけいせんい)になります。手術のときに、脊柱管の中を覗くと、たくさんの神経がばらばらと髪の毛のようになって並んでいるのがわかります。この髪の毛のような状態を「馬の尻尾」に例えて、馬尾(ばび)と呼んでいます。馬尾は神経の塊ではありませんので、脳からの命令を、電気のコードのように、単純に伝えるだけの役割を果たしています。このように命令や刺激を直接伝達するだけの神経を,末梢神経(まっしょうしんけい)と呼んでいます。末梢神経は、複雑な調整機能を持つ脊髄や脳のような中枢神経よりも構造が単純になっています。
図8.脊髄と馬尾
脊髄(せきずい)が通っている頸椎でも脊髄から神経根(しんけいこん)という末梢神経が枝を出して、それぞれの頸椎から腕や手に、胸椎からは肋間神経(ろっかんしんけい)に、そして腰椎からは足に、命令を伝えています。
脳や脊髄といった中枢神経は複雑な働きをするコンピューターに、神経根や馬尾といった末梢神経はコンピューターにつながっている電気のコードに例えることができます。当然、末梢神経(電気のコード)は中枢神経(コンピューター)より丈夫です。コンピューター(中枢神経)は一度つぶれると、修理が効きにくいのですが、電気のコード(末梢神経)は丈夫であまりつぶれません。神経根が圧迫されて症状がでる神経根症(しんけいこんしょう)は、手術をしなくても治ることが多いのですが、脊髄が圧迫されておこる脊髄症(せきずいしょう)では、コンピューターがつぶれてしまうと取り返しがつかないので、早い時期に手術をして圧迫をとる必要があります。
第3回Debate on the Ringを開催いたしました
第3回Debate on the Ringは多くの方にご参加いただき、活発なDebateを行うことができました。
来年(2015年)も同時期に第4回Debate on the Ringを行いますので、是非、ご参加ください。
開催日:2014年2月15日(土) 14時~18時
開催場所:神戸ベイシェラトンホテル&タワーズ(六甲アイランド内)
内容:変性側弯を伴った腰部脊柱管狭窄症に対する治療戦略
第8回市民講座を開催いたしました
第7回市民講座を開催いたしました
Vol.2 背骨の役割①(支持性)
これまで書いてきましたように、背骨には身体を支えるという重要な役割(支持性:しじせい)があります。この支持性が壊れてしまうと、身体を支えにくくなって、色々な症状(腰痛など)が出てきます。図6に背骨の支持性が壊れた(こわれた)状態をレントゲン像やCT像で示します。
図6.背骨の支持性が壊れた状態
上の図は背骨を正面から見たレントゲン像ですが、通常は真っ直ぐであるはずの背骨が曲がっています(黄色の線)。この状態を側弯と呼びます。曲がった背骨のために身体を支えることが「しんどく」なり「だるく重たい」「痛み」が出てきます。
この図では、椎体が圧迫骨折(あっぱくこっせつ)のため、つぶれてしまっています(黄色矢印)。つぶれた椎体の中には黒く写っている空気が入りこんでペコペコになってしまっています。このため、身体を支えるという背骨の役割を果たすことができず、強い痛みや不安定感を感じるようになります。脊柱管にある神経が圧迫されて、足の麻痺が出てくることもあります。
c.すべり症
椎体が矢印のように左下の方向にずれて(すべって)います。このため、不安定になり、腰痛を強く感じるようになります。また、脊椎がずれますので、上下の脊柱管もずれて、ずれた部分で脊柱管は狭くなります。このため、中にある神経が圧迫されて足のしびれや痛みを感じるようになります。
Vol.1 背骨のかたち
人間の身体をまっすぐに立てるために背骨は 重要な役割を果たしています。つまり、背骨は 頭蓋骨を直接下から支えて、背中を通り、 腰から骨盤(こつばん)までを一本の棒のように なって支えています。
背骨はひとつひとつがバラバラの脊椎(せきつい)という骨でできています。頭蓋骨の下には首の脊椎(頸椎:けいつい)が7つ、その下には肋骨がついた背中の脊椎(胸椎:きょうつい)が12個、そしてさらに下にある腰の脊椎(腰椎:ようつい)が5つあります。5番目の腰椎の下には仙椎(せんつい)があって、この仙椎は骨盤(こつばん)の一部になっています。
図1.頭蓋骨や身体を支える背骨 図2.頸椎、胸椎、腰椎、仙椎
ひとつひとつの脊椎は、図3aのように南京錠のような形をしています。南京錠の鍵の本体が脊椎の椎体(ついたい)、鍵の腕にあたるところが椎弓(ついきゅう)です(図3b)。たくさんの脊椎が頭から骨盤まで縦に並びますので、椎弓に囲まれた穴が筒のようになります。これを脊柱管(せきちゅうかん)と呼びます(図3c)。
図3.南京錠(a)、脊椎(頸椎)(b)、脊柱管(c)
a.南京錠 b.脊椎(頸椎) c.脊柱管(矢印)
脊椎はそれぞれが縦に並んで「柱」のようになりますので、脊柱(せきちゅう)と呼びます(全体を表す言葉ですので、「背骨」と呼んでもかまいません)。それぞれの脊椎は、ぐらぐらにならないように、靭帯(じんたい)という「すじ」(お互いを貼ってつなげるセロテープのようなものだと思って下さい)や椎間板(ついかんばん)という軟骨でつなげられています。左の図は脊椎どうしをつないでいる靭帯と椎間板を描いています。図の左側が「お腹側(前)」で、右側が「背中側(後ろ)」です。上下の脊椎の椎体はそのお腹側(前の方)が「前縦靭帯:ぜんじゅうじんたい」というセロテープで、背中側(後ろの方)が「後縦靭帯:こうじゅうじんたい」というセロテープでつなげられています。
「後縦靭帯骨化症:こうじゅうじんたいこっかしょう、OPLL」 という病気では、この「後縦靭帯」が「骨化(こっか):靭帯が骨に変ること」して、大きく膨らんできます。後縦靭帯は椎体の後ろで脊柱管の中にありますので、それが骨になって膨らむと、脊柱管が狭くなります。図で赤い部分が骨化した(骨になって膨らんだ)後縦靭帯で、青い部分が赤い部分に押されて狭くなった脊柱管です。脊柱管がこのように狭くなると、中にある神経が圧迫されて症状が出てきます。
椎間板は板状の軟骨で、上下の椎体をつないで、体重など背骨にかかる圧力を逃がす役割を果たしています(図4a)。椎間板は2重になっていて、体重などの力をよりうまく逃がせるようになっています。椎間板の中央にはゼリー状の柔らかい髄核(ずいかく)があり、その周りを線維輪(せんいりん)という硬い軟骨が被っています(図5)。ちょうど、アンコ(髄核)の入った「おまんじゅう」のようで、まんじゅうの皮が線維輪ということになります。ヘルニアでは、この中のアンコ(髄核)が外へ、脊柱管(せきちゅうかん)へ飛び出して症状が出ます。
図5. 椎間板(髄核:ずいかく、線維輪:せんいりん)、まんじゅう(写真下)
せぼねの豆知識<目次>
Vol.6 背骨の病気 1. 椎間板ヘルニア(5)椎間板ヘルニアの予後 (6)椎間版ヘルニア保存的治療とその効果
Vol.7 背骨の病気 1. 椎間板ヘルニア(7)椎間板ヘルニアの手術治療
Vol.8 背骨の病気 2. 脊柱管狭窄症(1)脊柱管のかたちとその役割 (2)脊柱管が狭窄する
Vol.9 背骨の病気 2. 脊柱管狭窄症(3)狭窄の原因 (4)狭窄症の症状
Vol.10 背骨の病気 2. 脊柱管狭窄症(5)狭窄症の治療 1回目
Vol.11 背骨の病気 2. 脊柱管狭窄症(5)狭窄症の治療 2回目
Vol.12 背骨の病気 2.脊柱管狭窄症(6)狭窄症治療の実際 1.保存治療
Vol.13 背骨の病気 2.脊柱管狭窄症(6)狭窄症治療の実際 2.手術治療 A.除圧術
Vol.14 背骨の病気 2.脊柱管狭窄症(6)狭窄症治療の実際 2.手術治療 B.固定術①②
Vol.15 背骨の病気 2.脊柱管狭窄症(6)狭窄症治療の実際 2.手術治療 B.固定術③④