Vol.5 背骨の病気 1. 椎間板ヘルニア(1~4)

今回からは、「せぼねの病気」について順番に説明します。まずは、「椎間板ヘルニア」についてです。

 

1)椎間板のかたちと役割についての「おさらい」

以前に、「せぼねの豆知識」で「せぼね」の中にある「椎間板」について説明しましたが、今回は「椎間板ヘルニア」の本題に入る前に、「椎間板」のおさらいをします。
「せきつい(脊椎)」(図1b)はひとつひとつが南京錠(図1a)のような形をしていて、これが図1cのように縦に並ぶことで柱のようになり、「せきちゅう(脊柱)」(図1c)を形づくります。これが、わたしたちの身体の軸の中心にあって身体を支えている「せぼね」です。

 

図1.南京錠(a)、脊椎(頸椎)(b)、脊柱管(c)
a.南京錠 
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b.脊椎(頸椎)
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c.脊柱
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「せきちゅう(脊柱)」を横から見ると図2(下図)のようになっていて、一つ一つの「せきつい(脊椎)」が「じんたい(靭帯)」や「ついかんばん(椎間板)」でつながっています。

 

図2 脊柱(脊椎、靭帯そして椎間板)
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「ついかんばん(椎間板)」は図2のように板状の「なんこつ(軟骨)」で、上下の「せきつい(脊椎)」をつないでいます。「なんこつ(軟骨)」は柔らかいので、クッションや枕のように、「せぼね」にかかる強い力を逃してあ げる役割を果たしています。椎間板の中は2重になっていて「ずいかく(髄核)」という柔らかいゼリー状の物質とその周りを囲んでいる比較的硬い「せんいりん(線維輪)」という軟骨からできています(図3)。椎間板は、ちょうど図4の「おまんじゅう」のように、ゼリー状で柔らかいアンコ(髄核)の中身が硬いまんじゅうの皮(線維輪)に囲まれているのと同じです(図4)。

 

図3 椎間板(髄核:ずいかく、線維輪:せんいりん)
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図4 まんじゅう
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2)ヘルニア

「ヘルニア」という言葉は、 医学用語で「穴から中身が出てくる(脱出する)」状態を意味しています。「だっちょう(脱腸)」という病気は「そけいヘルニア」とも呼びます。お腹の中の腸が「そけい部」を通って外へ出てくる(脱出する)状態を意味しますので、やはりこの状態は「そけい(部の)ヘルニア」という病名になりますね(図5)。

図5 そけいヘルニア
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図6 椎間板ヘルニア
5_image6aa.ヘルニアの図
5_image6bb.CT(造影剤がヘルニアに沿って流れている)
5_image6cc.MRI(ヘルニア)

 

椎間板ヘルニアは、図6のように椎間板の中の「ずいかく(髄核)」が「せんいりん(線維輪)」を破って外へ出てくる(脱出する)状態を意味します。図6bは髄核に造影剤を入れた後に撮影したCTで、ヘルニアに沿って造影剤が漏れ出ています(矢印)。図6cは同じ患者さんのMRIでヘルニアが向って右の黄色矢印の先にころんとした丸形としてみられます。 このヘルニアがあるため、図6cの患者さんの「せきずい(脊髄)」は圧迫されて凹んでいます(図6c黒枠白矢印)。 「おまんじゅう」に例えるならば、「おまんじゅう」(椎間板)が指で押されて中の「あんこ」(髄核)が「皮」(線維輪)を破って飛び出してきたようなものと言うことができます(図7)。

 

図7 椎間板とまんじゅう
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3)椎間板ヘルニアの症状

①首・肩甲骨や腰・お尻の痛み
ヘルニアでは「ずいかく(髄核)」が「せんいりん(線維輪)」を破って外へ出てきますので、線維輪、つまり「おまんじゅう」の「皮」が破れるための「痛み」を強く感じます。「けいつい(頚椎)」の場合、この「痛み」は「けんこうこつ(肩甲骨)」の辺りに出てきます。「ようつい(腰椎)」では、腰あるいはお尻の辺りに出てきます。
②手や足へひびく痛み(ほうさんつう:放散痛)
「せんいりん(線維輪)」が破れた後には、その穴を通って「ずいかく(髄核)」が椎間板の外に脱出します。この脱出した「ずいかく(髄核)」を「ヘルニア」と言います(図6)。脱出した髄核は、椎間板のすぐ後ろにある神経(「せきずい:脊髄」や「しんけいこん:神経根」)を圧迫することになってしまいます(図6,9)。神経が圧迫されるため、首であればヘルニアの場所から手の先へ行っている神経(神経根)が押さえられ、腰であれば足先に行っている神経(神経根)が押さえられて、手や足に鋭い痛みが走ります(図8)。これを「ほうさんつう(放散痛)」と呼びます。

 

図8 ヘルニアによる腕や足への痛み(放散痛)
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この痛みは強く、夜中に眠れなかったり、じっとしていられなかったり、大人が七転八倒するほど激しいこともあります。このように足先へ行っている神経が圧迫されるために足へひびく痛みを「ざこつしんけいつう(坐骨神経痛)」と呼んでいます。

 

図9 椎間板ヘルニアと神経根
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③麻痺(まひ)症状
神経がヘルニアに圧迫されるため、その神経が行く先の手や足に麻痺(まひ)が出現します。軽い場合は、手指・腕・足先・すね・膝などの「しびれ」ですが、ひどくなると触った感じが解らなくなったり、手指・肘・肩・足先・足首・膝・股関節に力が入りにくくなったり、動かなくなったりします。
もっとひどいときには、肛門や膀胱に行っている神経も麻痺(まひ)するため、小便や大便の機能が麻痺してしまうこともあります。

 

4)首と腰のヘルニアの違い

首のヘルニア、つまり「けいついついかんばんへるにあ(頚椎椎間板ヘルニア)」では首から肩甲骨にかけての痛みに始まって、手先や腕のしびれや痛みが出現し、ひどいときには手や肩・肘の麻痺へと症状が進展します。また、手に行っている神経根だけではなく、「せきずい(脊髄)」も圧迫されますので、脊髄の中にある足へ行っている神経も麻痺(まひ)して(図6c)、足も動きにくく、つまり、歩きにくくなることもあります。
腰のヘルニア、つまり「ようついついかんばんへるにあ(腰椎椎間板ヘルニア)」では、腰からお尻にかけての痛みに始まって、足先やすねのしびれや痛みが出現し、ひどいときには足先や足首・膝などの麻痺、さらにひどいときには小便や大便の障害まで出てくることもあります。

以上が、椎間板ヘルニアについての説明です。こうやってきちんと説明してしまいますと、やっぱり大変な病気であるということが良く解るわけですが、多くのヘルニアは手術を受けなくても良くなる可能性が高い病気です。説明では悪いことをいっぱいお話していますが、めげないようにして下さい。
次回では、椎間板ヘルニアになってしまっても、その後の経過はわりあい良いことが多いことや、どうしても手術を受けなければならなくなっても、その結果はわりあい良いことなどについて説明します。今回の説明だけで暗い気分になってしまわず、次の楽しいお話をご期待下さい。