Vol.13 背骨の病気 2.脊柱管狭窄症(6)狭窄症治療の実際 2.手術治療 A.除圧術

6)狭窄症治療の実際
2.手術治療
「5)狭窄症の治療についての疑問」「4.「手術」って、「悪い」「場所」を取り除くのですか。」で述べましたように、狭窄症に対する手術の基本的な考えは「狭窄」に陥った脊柱管を広げる(除圧する)ことにより、中に入っている神経を緩めることにあります。脊柱管を広げる(除圧する)には、「5)狭窄症の治療についての疑問」「4.「手術」って、「悪い」「場所」を取り除くのですか。」で述べましたように、脊柱管に面した「じんたい(靭帯)」や「ついかんかんせつ(椎間関節)」の「骨」を削り取る必要があります(図18)。図18のa.は狭窄のある状態、b.は手術で削り取る範囲で、c.が手術で削り取った後に脊柱管が広くなった状態です。

 

狭窄のある脊柱管の画像

図18 a.狭窄のある脊柱管 b.白線に沿った骨や靭帯を削り取る c.脊柱管の壁(骨や靭帯)が削り取られて脊柱管が広くなる

 

悪い場所(神経を圧迫している靭帯や骨)を取り除く(削り取る)ことで神経への圧迫が緩みます(これを「じょあつじゅつ(除圧術)」と言います。神経への圧迫を除くから「除圧術」です)。
「除圧術」の方法には、そのときに使う器具によって、①内視鏡手術、②顕微鏡鏡視下手術あるいは③通常の除圧術の3種類があります。ただ、どの方法であっても、手術の基本的な考えは「神経への圧迫を除く」「除圧術」です。「することについての」「差」はありません。全く同じことをします。ただ、内視鏡を使うのか、顕微鏡を使うのか、あるいはそういった機器を使わずに除圧するのか、という違いはあります。

 

A. 除圧術
① 内視鏡手術:内視鏡手術は患者さんの背中の皮膚を切開した後、中が空いてテレビカメラが設置された円筒を刺し込んだ状態(図24)から、除圧術(脊柱管を広げる手術)が始まります。除圧術はテレビカメラで映し出された映像を見ながら行います(図25)。

 

内視鏡手術図

図24

内視鏡手術の映像を見る医師の画像

図25

 

〈長所〉
1.筒を入れるだけなので、背中の筋肉をあまり傷めない。術後の腰痛などが少ない。
2.テレビカメラの映像なので、手術部位の映像が拡大されて見えます。細かいところまで明るく見ることができます(血管や神経が細かく見えます)。

 

〈短所〉
1.テレビカメラの映像なので、立体的な視野ではない。⇒3D画像が見れるカメラが開発されてきていますので解決されそうです。
2.手術操作が円筒内の限られたスペースでしか行えない。⇒術者が習熟することで手術は可能である。さらに、円筒を傾けたり移動させることで広い範囲の病巣に対応することは可能です。
3.脊柱管の中に入るまでの壁(椎弓など)を掘削しなければならない範囲は普通の手術と差はありません。
4.腹腔鏡や関節鏡と異なり、空気や水で中のスペースを膨らませて大きい場所にして操作できるのではなく、あくまで狭い限られた脊柱管の中というスペースで対応しなければなりません。(術者の習熟が必要です。)
5.細かい範囲内でしかも画像には歪みがある中での操作です。⇒術者の習熟が必要です。

 

② 顕微鏡鏡視下手術
図26のように顕微鏡を使って両目で手元を覗き込みながら手術をします。内視鏡(図25)のようにテレビモニターを見ながらよりも実際の手元を見ながらなので術者の手の動きとうまく連動します。

顕微鏡鏡視下手術の画像

図26

 

〈長所〉
1.両目で見るので立体的に見える。手元を見ながらの手術である。
2.顕微鏡での拡大された像を見るので、細かい血管や神経を確認できる。

 

〈短所〉
1.細かい範囲内での操作なので、全体を見渡すことがしにくい。細かい場所だけに集中し過ぎてしまうことがあります。⇒術者の習熟が必要です。

 

③ 通常の除圧術
ずっと前から用いられてきた手術方法よりも背中の筋肉に愛護的な操作を加える以下に示すような手術方法になっています。
背中から手術をして背中の腰椎の骨の突起(棘突起)を二つに縦割りにします。そして、縦割れになって二つになった棘突起それぞれを左右に圧迫して両側に開きます(図27a⇒b)。この操作で腰椎の椎弓が露出することになりますが、筋肉はほとんど傷めていません(図27b, 28a)。露出した椎弓を削って、脊柱管を拡大し、神経がきれいに見えるようにします(除圧します)(図28b)。最後に分かれていた両側の棘突起を一つに結びつけて(図27c)、手術を終了します。背中の筋肉を傷めないので、手術後の腰痛などは以前の手術法と比べればダントツに軽減しました。除圧のときに、もっと細かいところを見るには顕微鏡を使用することもあります。

腰椎の断面図

図27 a,b,c

a.腰椎の断面図(輪切りにしたところ)
b.棘突起(背中の突起)を二つに割って、左右の筋肉を両方に分けて腰椎を露出する。その後、図27a,bのように脊柱管を広げる(除圧する)。
c.脊柱管を広げた後、左右に分けていた棘突起を一つに結び付ける。

 

腰椎を背中から見たところの図

図28 a,b(腰椎を背中から見たところ)

a.真ん中の棘突起を二つに割って、真ん中の椎弓を全部、上下の椎弓を半分ずつ露出する。
b.脊柱管を広げたので、神経の入っている硬膜管や神経根が露出している。(図27cに戻って棘突起を結びつける。)